豚の人工授精は、種雄豚の効率的利用、種雄豚の飼養経費の節減や伝染性疾病の予防等、多くの利点があります。しかし、自然交配と比較して受胎率や産子数の低下、精液採取方法及び手技が煩雑である等の欠点があります。
 人工授精に用いる精液は、保存溶液の改良により、その保存性は向上しつつあります。しかし、現在推奨されている保存温度は15℃であり、この温度での精液管理には特別な機材を必要とし、また保存期間も短い状況にあります。
 そこで、当所では受胎率及び産子数を下げずに、精液を5℃で保存できる新たな方法を考案しました。これにより家庭用冷蔵庫を利用した保存が可能となり、保存期間も10日間となりました。

精液の処理方法
 保存溶液は、以前からよく使われているモデナ
液です。これに、添加剤としてBHTという抗酸化剤を加えます。採取した精液をこれらの溶液で
調整(容量50ml、精子数100億)し、プログラムフリーザーで38時間かけて5℃にまで温度を下げます。

試験成績
 まず、当所で飼養している種雌豚12頭で受胎試験を実施しました。受胎率は平均91.7%、産子数は10.6頭でした(平均保存日数8.4日)。
 つぎに、農家3戸に依頼して、実際に低温輸送による実証試験を実施しました。3戸合わせた成績は、12頭中11頭が受胎し、受胎率は91.7%、平均産子数は10.8頭でした(平均保存日数7.8日)。全体の成績は、表1のとおりです

表1 低温精液の受胎成績
低温精液の利点
1 保存温度が5℃なので、家庭用冷蔵庫での保存が可能となります。
2 保存期間が10日間なので、精液を効率よく利用できます。
3 母豚の離乳に日時をあわせた精液採取ができ、作業効率が上がります。

精液の払下げ
 今までの精液の発注は、雌豚の発情にあわせた非常にあわただしいものでした。
 しかし、低温精液ならば低温宅配便での輸送が可能となり、しかもそのまま冷蔵庫に保存しておけるので、余裕を持って精液の購入が出来ます。
 発情が多少ずれても問題がありません。また、予定外の雌豚の発情にも即対応できます。
 低温宅配便なので、季節による温度変化も少なく品質が安定しました。
 今後は、農家のご希望により「常温精液」と「低温精液」の2種類での払下げをいたします。

注意点
1 採取した精液を5℃にするのに38時間かかるので、精液の到着は注文してから3日後になります。離乳のときに注文をお願いします(急ぎの場合は、従来の常温精液になります)。
2 払下げる精液は、容量50ml(精子数100億)を2本です。
3 精子活力を維持するため、冷蔵庫保存中は1日数回、転倒混和してください。
4 人工授精は1発情で2回実施してください。朝に発情を見つけたときは夕方、夕方のときは翌朝に1回目の授精を行い、その12時間後に2回目の授精を行ってください。

取扱い品種 ランドレース種、大ヨークシャー種
連絡先 茨城県畜産センター養豚研究所
    〒300−0508 稲敷市佐倉3240
    TEL029-892-2903 FAX029-892-3384