1.共進会と奨励金
 「家畜の改良は登録にあり」といわれてきたが、家畜を一堂に会して「改良・飼養管理技術の研鑽を図る」目的で開催されるようになったのが共進会である。県内での共進会については、畜産年表(県養鶏試験場 木村茂)によると、明治42年11月に県共進会品評会規定を制定し、翌43年10月21〜22日に水戸において第1回県共進会(水戸市・東茨城・稲敷畜牛組合連合)が開催されたのが最初である。当時の共進会の詳細は知る由もないが、結城郡の広江農場の資料によると、一等賞百円、二等賞五拾円、三等賞参拾円が牛改良に対する奨励金として授与されている。
2.戦後の改良増殖
 戦中の飼料不足から、乳牛頭数は2,438頭(昭和24年)と戦前の20分の1へ激減する。戦後の食料不足、特に幼児・病人への牛乳・乳製品の不足は深刻な状況にあった。この対応として茨城県は昭和21年農政部に畜産課を設置し、「茨城県畜産振興計画」を樹て、家畜の増殖を図ることとした。 昭和23年11月25日、友部町の県畜産試験場において戦後第1回目の乳牛共進会が開催された。第2回目は29年11月21〜23日の3日間にわたり石岡第一高校において開催され、以後は家畜市場(土浦市、下妻市での開催もあり)を会場に実施されてきた。

3.不足払い法の制定
 「茨城県畜産振興計画」は樹立したものの依然として飼料不足の状態が続き、乳牛の増殖は遅々として進まなかった。飼養頭数が増加するようになるのは、朝鮮動乱(昭和25年6月)によりいわゆる「特需」の受注から経済が緩和して食料事情が好転し、これに伴なって徐々に飼料が流通し始める昭和26年以降である。昭和29年6月に酪農振興法の公布、同法に基づき土浦地域が酪農振興地域に指定され、酪農家戸数、乳牛飼養頭数が増加した(茨城県ではS36の8,400戸が頂点)。昭和30年代初頭の神武・岩戸景気を機にわが国の経済は発展して牛乳の消費は伸びるが、需給のアンバランスを現出し、「乳価闘争」が繰り返されてきた。
 こうした情勢への対応として昭和40年6月「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(不足払法)」が制定され、翌年4月1日より実施された。この法の特徴は従来の混合乳価での取引から、飲用向けと加工向け原料について乳価を2本立てとして行うこととし、加工向け原料乳の生産費と販売価格との差を国が補填するという仕組みである。

4.乳牛改良への取組み
 昭和40年代に入りわが国の経済発展はめざましく、酪農家の中には他産業への転換と乳牛飼養規模の拡大を図る者とに分化する。殊に「不足払法」の実施により加工向け原料乳の価格が保証されたことと、30年代末から40年代初めにかけて中・大型の制度資金が設定されたことにより、この資金を利用して規模拡大を図る者が現れるようになった。

こうした酪農専業を目指す人たちや第3、4回ホル全共への出品人たちから飼養規模の拡大と乳牛の改良について研究会を創ろうとの声があがり、昭和41年9月21日友部町の県畜産試験場において創立総会が開催され、「茨城県乳牛改良研究会」が発足した。昭和48年度から実施された茨城県乳用種畜導入事業(輸入牛の導入)を契機に同志による研究会を発展的に解消し、翌年9月に県酪連内部組織として乳牛改良委員会が設置された。以後、この改良委員会が中心となり、関東や全国共進会への参加を推進している。
 また、酪農家の自主的運営による「B・Wショウ」も昭和52年9月に開催し、今日に至っている。

5.儲かる酪農経営へ
 わが国で最初に西欧式大規模農業牧場を開設した広沢安任は「・・・農事は現業であり、利得がなければ如何ともし難い・・・」と。また、明治28年に牛飼養を始めた結城郡の広江嘉平は「我地方乳牛飼養者アリシモ微々トシテ振ハサリシノミナラス、其他クハ事業意ノ如クナラス、失敗ニ了セルヲ目撃セシカ先進者ノ失敗ハ後継者ノ意志ヲ沮喪セシムルヲ思ヘ、・・・失敗ヲ以ッテ了ラザルベシト。・・・」と明言している。つまり、両者とも儲かる経営を実践することが重要であると説いている。酪農経営は、主産物である牛乳の生産力の大小がその経営の経済を左右する。牛改良の有効な手法として昭和40年代の末から開始された種雄牛選抜としての後代検定事業、乳用牛検定事業への参加についても、乳牛改良委員会が中心となって推進してきた。

6.乳牛の生産力
 こうした努力の結果、表にみられるとおり平均産乳量は昭和57年の6,375kgから平成14年以降の9,000kg台へと大きく伸びた。また、乳量の階層別でみると、8,000kg以上の牛が昭和57年当時は100%であったものが平成14年には74.3%と全体の2/3以上を占めるに至った。これは改良にあたって酪農家は乳量、乳質のみならず、パイプライン、バルククーラー、そして近年普及しつつあるフリーストール、ミルキングパーラーシステムでの飼養管理に適応し得る体部位の改良による機能性(乳房の付着・容積・形状と乳頭の配置)を追求した結果である。

7.今後の展望
 乳牛改良の課題は、表からも明らかなとおり平均産次数を2.6産から3産以上にアップさせることである。つまり、耐用年数の延長化のための強健性である。また、多頭飼育における労働の合理化を図るための搾乳性についても改良推進が必要である。これらの改良によって、より経済性の高い経営の構築が可能となるであろう。直近の茨城県における酪農統計では、戸数(H17.2.1)701戸、生乳生産量(H16)19.4万トンであるが、上記の点に留意しながら更に改良を進めていくならば、現在の乳牛の生産力構造からみて生乳生産量20万トン台の維持は可能な状況にあると確信するものである