1  はじめに
  家畜排せつ物の管理の適正化と利用の促進を柱とする、いわゆる「家畜排せつ物法」の施行に伴い、家畜排せつ物の処理・利用方法について改善が強く求められています。固形物に関してはたい肥化が最も一般的な処理方法であり、処理と利用は関連づけて検討されてきています。一方、液状物に関しては浄化・放流が一般的な方法です。しかし、茨城県では霞ヶ浦流域のように水質基準に上乗せ規制をかけている地域が多く、個々の農家で水質基準に対応するのは困難な状況であり、不適切な処理・利用による環境への負荷が懸念されます。そのため環境への影響を考慮した、浄化・放流以外の利用方法について検討する必要があります。考えられる方法は、やはり肥料としての利用です。液状物の肥料としての利用については、飼料生産圃場では行われていますが、耕種農家での利用を前提とした、液状物の処理や利用方法について詳しく検討した例は多くはありません。そこで、当センターではまず利用の前段階として、液状物の成分の調査、曝気処理による成分の推移等についての試験を行ってきました。その結果をふまえて、液状物の処理・利用の現状について報告します。
2  液状コンポストの定義
  畜産環境大辞典によると「積極的な混合攪拌によって、好気発酵させ臭気が無くなり、圃場に施用しても作物の発芽障害などになる有害物質も分解されて無くなっており、安全な肥料として利用できるように調整された液状取扱の家畜ふん尿」を液状コンポストと定義しています。そこで貯留のみという液状物は除き、一定期間曝気し汚物感の無くなった液状コンポストを利用の対象として検討していきます。
3  液状コンポスト処理・利用の現状と問題点
  茨城県内の養豚農家60戸について、処理方法や成分の調査を行った結果を見てみると固液分離に関しては、全く分離していない農家が2戸ありましたが、多くは畜舎内で分離するか、畜舎外の機械で行うか、何らかの形で固液分離を行っていました。曝気処理に関しては曝気なしが1戸、間欠曝気が12戸、連続曝気が46戸ありました。ほとんどの農家が何らかの処理を行っており、液状コンポストとみてよいと思います。ただ、性状や成分値については幅が非常に大きく(表1)、これが肥料としての利用を妨げる要因の一つとなっています。
表1  液状コンポスト成分値

注1)分析は採取したサンプルをよく撹拌した状態で行った。
注2)<は検出限界値以下。

  液状コンポストの処理施設は一般的に原水槽、曝気槽、貯留槽からなりますが、原水槽や貯留槽がないこともあり、施設は通常の汚水処理に比べて簡略化されていて、管理もそれほど厳密ではありませんでした。
  利用先は畑作ではハクサイやホウレンソウなどで、元肥として主に利用されており、散布はほとんど畜産農家が行っていました。また、果樹に利用している例もありました。水田に関しては全国的には利用例がいくつか見られますが、未だ取り扱いには慎重な考えが多いようです。
  これまで液状コンポストは「排せつ物処理」という、畜産農家から見た立場で取り扱われてきましたが、今後は利用する耕種農家の立場を考えた処理方法を検討する必要があります。問題点として考えられていることは、
  1)成分にばらつきがある
  2)肥効が不明確
  3)散布時の臭気
  4)散布方法の省力化
があげられます。今回当センターでは、成分のばらつきへの対応、散布時の周辺への臭気の影響について試験・調査を行いました。
4  曝気処理中の成分変化と成分の簡易推定
  成分にばらつきを与える要因として曝気期間の違いが考えられたので、曝気期間中の成分濃度の推移について調査しました。リンやカリウムは大きな変動はなく、肥料成分で最も変動があったのは窒素でした。変化が起きたのは10日目以降で、有機体窒素の減少(結果として無機態窒素割合の増加)、アンモニア態窒素が減少し、代わりに硝酸態窒素の増加が起こり、それ以降は大きな変化はありませんでした。成分のばらつきを少なくするには、曝気期間として2週間以上というのが一つの目安になると思われます。曝気期間には濃度、曝気量、曝気方法(間欠か連続か)が影響を与えると考えられますが、まず、濃度については濃度が高いと発泡、ブロアーへの負荷増大などがあるため、今回調査した濃度(浮遊物質で15,000mg/程度)以上での処理は行わない方がよいと思います。曝気量・曝気条件に関しては今後検討する必要があります。
  また、成分に時期的なばらつきがあっても、畑に散布する直前に成分を把握し、その結果に基づいて施肥量を決定できれば影響は少なくなると思われます。そこで、県内の農家から収集したサンプルを元に電気伝導度を利用した成分の推定方法について検討しました。結果は窒素に関しては電気伝導度と高い相関が得られ、さらに、処理方法を限定することにより精度を上げることができました。しかし、リンやカリウムでは高い相関は得られませんでした。
5  液状コンポスト散布時の臭気調査
  臭気に関しては独特の排せつ物臭は十分な曝気によって低くすることができます。また、散布する時の畑の周囲での臭気について当センターで測定した結果、散布の前後で臭気強度の違いはほとんどありませんでした(表2)。さらに散布後速やかに土壌で被覆すれば臭気はまず気にならないと思います。液状物の畑への散布に対して排せつ物をそのまま散布するイメージがあり、液状物の散布=臭いという意識が強いので、常に適正な処理を心掛ける必要があります。

表2 液状コンポスト散布時における周辺の
     アンモニア臭気調査

注1)圃場A.Bは散布圃場の積で、圃場Cはビニールハウス内なので、
      ハウスの入り口付近で測定した

注2)臭気強度:1:やっと感知できるにおい、
     2:何の臭いか辛うじてわかる弱い臭い、 3:何の臭いかわかる臭い、
     4:強い臭い、5:強烈な臭い


6 まとめ
 液状コンポストの利用性に関しては検討が始まったばかりで、まだ数多くの問題があります。肥効割合に関しては、液状であるため化成肥料やたい肥と違った動向を示す可能性があり、硝酸態窒素の地下水への影響を含めて動向を調査する必要があります。また、散布に関してはバキュームカーからホースで散布している場合が多く、労力と均一に散布するための熟練が必要であり、散布方法の検討も必要です。
 今後の畜産経営において環境対策は環境への負荷削減という点はもちろん、家畜排せつ物が環境負荷物質ではなく有効な資源である、という社会的認識を確立することが必要であり、液状コンポストの適正な利用方法を考えることで、そのような認識に一歩でも近づいたら、と考えます。
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