ヨーグルト工房の前で
1.もっとスローな牛飼いに
  私たち夫婦(昇57歳、ともえ55歳)は石岡市の郊外で成牛32頭、育成牛20頭、飼料作付け延べ面積7.4haの、今では飼養頭数が県平均より少ない規模の経営をしています。これは、27年前に公務員を辞めて酪農に入ったときの将来の目標頭数でした。牛を健康に飼うということを基本に考えて、仲間と勉強会をしたことにより、牛の事故が減り、耐用年数が長くなりました。なんといっても一番に変わったのはお産で、手伝わなくてもひとりで生れるようになりました。いつの間にか生れて、母牛が子牛を舐めているという手のかからないお産になりました。
  その結果、間接的に規模拡大しなくても経営が成り立つようになりました。何をしてきたかといえば、土づくり、堆肥づくりをしたことです。昔からいわれている牛飼いの基本を実行しただけです。最新の技術・情報を取り入れた酪農もいいでしょう。しかし、基本的な事を継続すると、その成果はゆっくりと表れしかも長続きします。人生長いのですから、そう慌てることはありません。
  今地球の温暖化が大きな問題として取り上げられ、環境破壊を止めよう、持続的社会を構築しようといわれています。酪農は本来その持続的産業のモデルではないでしょうか。つまり、健全な土づくり、草づくりをして健康な牛を飼い、おいしい牛乳を生産して消費者に届け、牛から出た糞を上質な堆肥にしてまた土に戻して草をつくるという「循環型農業=酪農」が成り立ちます。そのようなサイクルを止めて、すべての飼料を外国からの輸入に依存したり、ゴールなき規模拡大を追い求めていると、日本の酪農の存在意義も問われかねませんね。
  適正規模という言葉があります。物質的豊かさを求めていると、この言葉は耳に入りません。心の豊かさを求めていると、この言葉は気になってきます。それぞれに置かれた立地、環境により適正な規模は違います。あなたももっとスローな牛飼いになりませんか!
2.顔がみえる消費者がいるということ
  昨年、小さなヨーグルト工房をつくりました。これは「健康な牛をつくればよい乳が出る。そのためには、エサとなる草が健康に育つよう、まずいい土を」と堆肥づくりをしたおかげで、おいしい牛乳がつくれるようになったからです。その牛乳を使って自家製ヨーグルトをつくり、自分たちで食べ、近所のひとや来訪者にも試食してもらったところ「おいしい!」と評判になり、それなら施設をつくり許可をとって製造しようと工房を建設することにしました。
  これは私たちが以前から考えていたことで「自分たちがつくった牛乳、乳製品を顔のみえる消費者に届けたい」という長年の念願でもありました。 多くの良き友人・知人の協力で平成16年7月にヨーグルト工房が完成し、1日約100〜150本、週4日製造の受注生産をしています。大部分の方がリピーターであり、地域の人たちです。酪農家がつくるヨーグルトですから、もちろん原料は自分の牛乳のみを使い、他の乳製品、添加物は一切使用していません。またこれからの地球環境を考え、なるべくゴミをださないよう容器はビンのリサイクル(国内で初めて)、工房での殺菌剤、薬品の使用は一切なしと、企業ではおそらく手間とコストがかかってできないことをやっています。
  私たちのヨーグルトを買ってくださる方々との直接の出会いとつながりが日々の牧場での仕事の活力になり、またもっとおいしくて安心できる牛乳をつくらなければならないとの思いにもなっています。非遺伝子組換え(NON−GMO)飼料のとり組みはもちろんのこと、国産の穀類の利用を考えたり、トラクターの燃料に廃食用油(BDF)*を利用したりと、顔のみえる、考える消費者が近くにいることで、いろいろ思いをめぐらせて酪農ができることに充実感を覚える今日この頃です。こんな生活をしていると、近頃流行のロハス(LOHAS)**にぴったりだとは思いませんか。
*Bio  Diesel  Fuelの頭文字の略語で、植物由来の軽油代替燃料のこと。**Lifestyles  of  Health  and  Sustainabilityの頭文字の略語で、健康と環境を重視した生活スタイルの意味。