背景と課題
 大子町は畜産が盛んな中山間地域です。38戸が酪農経営を行っていますが、そのほとんどが家族経営で、平均飼養頭数は25頭と小規模です。家畜糞尿の適正な処理のため、堆肥を還元できる農地を確保することが重要ですが、大子町の耕作農地は8%しかなく、環境に優しい畜産経営と規模拡大による所得向上の両立は困難な状況です。
 そこで、現状の規模で所得向上を図るためには、一頭一頭を大切に管理し、生産性を向上させることが不可欠なのです。
 今回共同プロジェクトに取り組んだ青年部の仲間5人の経営を見直した結果、分娩間隔の長い牛が生産性を悪くしている問題が明らかになりました。理想的な分娩間隔は13ヶ月ですが、私達5人の現状は14.5ヶ月となっています。この点に着目し、その改善を課題としました。
実施内容
 明かな繁殖障害を除いた長期不受胎牛と微弱発情牛に対しホルモン処理(写真1)を実施し、その後発情を確認して人工授精を行いました(表1)。ホルモン処理によって発情を明確に誘起させることで受胎率を向上させます。牛が乳を出さない無駄な期間を減らすことで、その間の飼養経費のロス削減を図るというわけです。

         写真1 イージーブリード挿入
結 果
<ホルモン処理の結果> @発情兆候の発現83%。→発情を確認した10頭に 人工授精を実施。→受胎率60%。
A受胎しなかった牛でも67%が発情周期回復。
             表1 ホルモン処理方法
1日目午前 イージーブリード挿入(*膣挿入型黄体ホルモン製剤)
コンセラール注射(*性腺刺激ホルモン放出ホルモン)
8日目午後 エストラメイト注射(*プロスタグランディン)
9日目午前 イージーブリード除去
10日目午後 コンセラール注射
11日目午前 発情を確認→人口授精

<経済的損失シミュレーション(図1)>
@現状の経済損失(牛1頭当たり)
 牛1頭、1日当たりの飼養経費は約1,300円。 現状の分娩間隔は目標の395日に比べて42日間 長く、この間約56,000円が牛1頭当たりの飼養 経費のロス。
Aホルモン処理を実施した場合の経費
 1頭当たりの経費は約21,000円。
Bホルモン処理による損失削減効果
 @、Aより、ホルモン処理をした方が、1頭当 たり35,000円削減可能。私達5人の平均規模の 43頭では、実に一戸当たり150万円の損失削減。


      図1 経済的損失シミュレーション
考 察
 受胎率は一般の人工授精での成績と同等でしたが、今回の長期不受胎牛や微弱発情牛を対象とした結果としては、大きな成果であると考えます。また、受胎しなかった牛にも発情周期が回復したことから、ホルモン処理は繁殖成績の改善に有効であると考えられます。
 これまでは授精適期を自分で把握しなければなりませんでしたが、ホルモン処理を行うことで発情周期が回復して次回発情予定日がわかるため、決まった時間に発情確認や人工授精が行え、作業労力の軽減も期待できます。
今後の取り組み
 さらなる受胎率の向上と分娩間隔短縮を図ります。今回は経産牛のみでの取り組みでしたが、未経産牛や産歴の浅い牛の方が受胎率が高いというデータもありますので(表2・表3)、これらを含む牛群全体でホルモン処理を実施してみたいと思います。また、ホルモン処理を効果的に実施するために、個体の繁殖状況を再度確認し、明らかな繁殖障害の牛は獣医師と相談して治療も検討したいと思います。
              表2 産歴別成績
産次 試 験
実施頭数
中 止
頭 数
授 精
頭 数
受 胎
頭 数
受胎率
(%)
1〜2 13 12 66.7
3〜4 11 10 50.0
5〜6 50.0
7〜 33.3
36 34 18 52.9
                  (肉用牛研究所 高橋H13〜14)
          表3 繁殖和牛のとりくみ
分娩後日数 189日
発情発現率 100%
受胎率
    経産牛
    未経産牛
50%(8/16頭)
46%(5/11頭)
60%(3/5頭)
                               (大子H16)
 ホルモン処理にのみ頼るのではなく、飼養管理面も含めた改善を心掛けたいです。情報提供を図って、青年部や地域全体への波及等を行っていきたいと思っています。
関係者の一言(常陸大宮地域農業改良普及センタ ー専門員 今井洋彦)
 このプロジェクト発表は、平成16年度茨城県農村青少年プロジェクト発表会で優秀賞を受賞し、平成17年7月28日〜29日に長野県で行われた「平成17年度関東ブロック農村青少年クラブプロジェクト発表会」に県代表として参加しました。関東ブロックでも優秀賞に選ばれ、来年の8月に山形県で開催される「第18回全国青年農業者交換大会」に関東代表として参加することとなりました。
発表者の一言
 まず、今回のプロジェクトでは沢山の方々のご指導ご助力を頂き、ありがとうございました。おかげで無事に発表することが出来ました。今回、「減らそう!見えない経済損失」のプロジェクトに取り組んだことは、経営を見直し、さらに改善するきっかけとなり、大変勉強になりました。今後もさらに経営が改善されるように頑張りたいと思います。

       写真2 関東ブロックで最優秀賞受賞