はじめに
 県内の公共牧場は殆どが傾斜放牧地であり、草地更新作業には多大な労力が必要です。更新がなされず野草地化が進行している牧場、利用率の低下により荒廃している牧場等が見受けられます。シバは家畜の踏みつけや土壌浸食に強く、永続性があることから放牧草地をシバ草地化することで、放牧草地の管理労力(施肥管理、草地更新作業等)の軽減が可能です。
 シバ草地造成方法のなかで傾斜地に適した方法は、植芝法及びシバポット移植法があげられます。本試験では、シバポット移植法により既存放牧草地にシバを導入し、シバの成長の妨げとなるイネ科牧草、イネ科雑草等の長草型草種の処理を人力によらず放牧牛に採食させ抑制することで、短期間にシバ草地を造成するための試験を行いました。

1.方法
1)供試シバ
   朝駆(畜産草地研究所品種登録)、肉用牛研究所内に自生しているノシバ(以下所内シバ)、及び県内公共牧場に自生しているノシバ(以下牧場シバ)
2)移植方法
(1)移植時期 平成13年6月4日
(2)移植密度 1苗/所/4u
3)供試草地等
(1)供試草地
 当所内のイネ科雑草が優先する放牧草地(130a)を供試した。
(2)供試牛 黒毛和種繁殖雌牛
(3)放牧方法
ア.定置放牧:各年度とも6月上旬から10月上旬(供試草地)
イ.輪換放牧:定置放牧の前後はアズマネザサ優占草地37a、53a、イネ科雑草優占草地60a、75a、トールフェスク優占草地53a、供試草地130aを順次転牧した。
ウ.平成13年、14年は供試草地を2分割し、2頭区、3頭区合計5頭放牧した。15年、16年は分割せず4頭放牧した。
4)調査内容
(1)シバの生育状況
 平成13年に定着したものから平成14年度にランダムに15箇所ずつ選定し、以下の調査を行った。供試草地の植生(SDR2、シバの被覆面積「伸長した匍匐茎が形成する多角形の面積とした」)。13年、14年は定着率、被度(1m×1mの枠を10m×10cmの小枠にし、シバが侵入した小枠の合計)。
(2)供試草地の乾物収量
 供試草地内に設置したプロテクトケージ(1.5m×1.5m、5箇所)内の1m×1mについて、供試牛の体重測定・採血の当日に刈り取り、70℃で96時間の通風乾燥を行い、乾物重量を求めた。
(3)供試牛の体重

2.結果
1)シバの生育状況
 移植1年目のシバの定着率(表1)は、各品種とも50%以下と低かった。特に牧場シバが22.3%と低かった。

 移植1、2年目の被度(表2)は朝駆、所内シバとも2頭区が高く、所内シバが35.5%と高かった。

 移植4年目(H16)の被覆面積はシバ品種間に有意差(P<0.05)があり、所内シバ、朝駆が牧場シバより大きかった。

 被覆面積が4u以上の割合(表4)は品種間に有意差(P<0.05)があり、所内シバ、朝駆が牧場シバより大きかった。

2)主要草種の植生(SDR2)の推移
 移植後4年間のシバのSDR2順位の推移(表5)は、所内シバ及び牧場シバの順位が毎年上り優占草種になった。
 シバ草地造成1年目(平成13年)は、トールフェスク、ケンタッキーブルーグラスなどの寒地型牧草及びイネ科雑草(イヌムギ、メヒシバ)が上位だったが、造成4年目(平成16年)は、寒地型牧草やこれらのイネ科雑草が順位を下げ、シバやシロクローバーなど短草型の草が上位になった。


3.供試草地の乾物収量及び試験牛の栄養状態
 供試草地の毎月の乾物収量(表6)は7月まで増加しその後は緩やかに減少した。

 試験牛の体重(表7)は、定置放牧期間中の供試草地の乾物収量が減少した8月から退牧まで減少する傾向にあるが、10月以降に供試草地も含めた輪換放牧に移行することで回復した。

考  察
 移植1年目のシバの定着率は、各品種とも40%以下と低かった。シバポット苗を移植直後に放牧した今回の試験では移植時に雨が少なかったことや蹄傷、食害などの条件が重なり定着率が低くなったものと思われた。
 本試験で供試したシバの特徴は、所内シバが匍匐茎の節間伸長が短く分枝が多く密なシバ地を形成し、朝駆や牧場シバのように節間伸長量が大きく分枝が少ない特徴をそれぞれ持っていた。所内シバのようなノシバは、供試したシバの中で被覆面積が最大であることからシバ草地化に適している。一方、朝駆や牧場シバのようなノシバは、蹄傷等により匍匐茎が切断されその後の生育に大きく影響したと思われた。
 本試験で試みた放牧草地のシバ草地化法は、シバ苗移植(1苗/4u)直後に放牧を開始し、放牧牛の採食だけで牧草やイネ科雑草等の既存草を抑制する方法であるが、放牧頭数は移植2年目の被度が2頭区が3頭区より高いことから2頭区程度(3頭/ha)が適当と思われた。
 所内シバの優占順位が1位になるのは移植後3年目であり、短期(1〜2年)に造成することはできなかった。シバ草地化を早めるためには、移植苗の定着割合、生存割合を高くする移植法が必要である。移植密度は2苗/u以上必要であるとされており、移植苗数を増やすなどの対策が必要であると思われた。