はじめに
 近年、省力化が進み、フリーストール(またはフリーバーン)方式の牛舎が増えてきました。そのような牛舎は、従来からの繋留式に比べ、乳牛の行動が自由でストレスがかからないと言われています。確かに、全体のストレス量は繋留式より少ないと考えられますが、強い牛が自由になったことによって、弱い牛の行動が制限されたり、ストレスを受けることもあります。
 フリーストール方式の牛舎は、施設や労働力、コスト等の問題をクリアし、多群管理とTMR方式で管理していれば問題は少ないかもしれません。しかし、一群管理であったり、飼料給与を分離給与で行っていると問題が発生する可能性があります。
 それらの点を考慮して、分娩後新たに搾乳牛群に加わる初産牛と経産牛を各4頭用いて、搾乳牛群編入後に行動調査を行いました。なお、牛群規模は40頭で分娩後6日目に編入させました。調査の時間は牛舎を観察しやすい午前10時30分から午後5時までの6時間30分間です。以下、その試験の結果を紹介します。
牛群内での順位と闘争行動
 編入牛の強弱を把握するためにパーラーへの入室順位を調査しました。パーラーへの入室は強い牛ほど早く入り(順位が高い)、弱い牛ほど遅く入る(順位が低い)傾向があります。その結果を表1に示しました。経産牛の前乳期の乾乳前10日間では40頭中22位でした。そして、分娩後、再び搾乳牛群に編入した時の順位は21位と変わりませんでした。一方、初産牛は牛群編入後10日間は31位と順位が低く、10日目以降は若干上がったものの27位で定位置となりました。
表1 パーラー入室順位(位)
調 査 日 初産牛 経産牛
前乳期 乾乳前10日間 22.0
牛群編入後 1〜30日間 28.4 20.9
1〜10日間 31.1 21.4
11〜20日間 27.4 20.2
21〜30日間 26.7 21.0
 表2には闘争行動の回数を示しました。1日目の闘争行動は、経産牛は「攻撃した回数」が「攻撃された回数」より多く、逆に初産牛は「攻撃した回数」より「攻撃された回数」が多くなりました。また、初産牛は「攻撃した回数」に対し、「攻撃された回数」が2倍でした。
表2 闘争行動回数(回)
項  目 調 査 日 初産牛 経産牛
攻撃した回数 1日目 13.5 27.8
3日目 6.0 10.5
1ヵ月後 6.3 10.3
攻撃された回数 1日目 24.8 18.8
3日目 12.8 14.0
1ヵ月後 11.3 10.3
 「肉体接触を伴う攻撃は攻撃をする側もされる側もストレスとなり、特に敗走は強いストレスとなる。」と言われており、初産牛は牛群内で弱く、多くの攻撃を受けるため、強いストレスを受ける状況に置かれています。また、経産牛も体が大きいため弱者ではありませんが、編入当初は平時(1ヵ月後)に比べより多くの攻撃を受けました。
採食行動
 給餌は、調査時間中に午後1時と3時30分の2回ありました。なお、飼料給与は制限給餌で行いました。
 図1は採食時間を表しています。牛群行動で最も重要な採食行動は初産牛と経産牛共に、1日目と3日目は平時と比べて少ない時間で、編入牛は3日目まで十分に採食を行えないということが示されました。特に初産牛は1日目では、2回の給餌があったにもかかわらず、約50分と少ない採食時間でした。
 観察で散見された初産牛の特徴的な行動は、採食中に他の牛に追われたり、給餌後一斉に牛達が採食を開始すると、そこに交ざって採食ができないという行動でした。
 試験期間(編入後30日間)の乳量は経産牛が32kg/日、
初産牛は23kg/日で、経産牛が多くなりました。一方、編入1日目に対する1ヵ月後の体重の比率(表3)は初産牛が95.1%、経産牛が98.1%で、初産牛は経産牛に比べ相対的に減少が大きくなりました。これらのことは、初産牛は経産牛に比べ牛群に編入してからの採食量が十分に確保できなかったことを示しています。
表3 体  重(kg)
調 査 日 初 産 牛 経 産 牛
1日目 568(100) 665(100)
3日目 564(99.2) 662(99.5)
1ヵ月後 540(95.1) 652(98.1)
( )は1日目に対する割合
休息行動
 牛の休息行動は横臥(横になる)です。図2は横臥時間、図3は起立時間を表しています。編入1日目は初産牛、経産牛共に6時間30分の内40分しか横臥していませんでした。一方、起立時間は横臥時間と逆の傾向で、1日目に多く、3日目以降は減少しました。横臥、起立に関して散見された特徴的な行動は、横臥中に他の牛に臭いを嗅がれて立ち上がるという行動でした。また、他の牛に追われベッドを避難所とし、攻撃にいつでも対応できるように起立しているという行動も多く見られました。
 1日目は闘争や嗅がれることが多いため、起立時間が増え、横臥時間が少なくなったと考えられます。3日目以降は闘争や嗅がれる行動が落ち着いたため、起立時間が減少し、横臥時間が増加したと考えられます。
 これらのことから、編入牛は初産、経産を問わず1日目は十分な休息が取れないということが示されました。
まとめ
   乳牛が新たに搾乳牛群に編入した際、当初は採食行動と休息行動が十分に取れませんでした。特に採食に関しては、しばらくの間十分な採食量を確保できず、その傾向は初産牛に強く現れました。
 「牛群内の社会的序列が下位の牛は他の牛に採食を妨げられることが多く、他の牛と競合しない時間帯を中心に採食を行っている。」と言われています。TMRの様に不断給餌で選び食いができない飼料であれば、給餌後に下位牛が上位牛に妨害されたとしても、それ以外の時間帯で採食量が確保できます。しかし、制限給餌の場合は、上位牛が下位牛の分まで飼料を食べてしまうと、下位牛の採食量は確保できなくなります。
 そういったケースの対応策として、給餌後は連動スタンチョンにより、全頭の採食がほぼ終わるまで繋留することが一番簡単な方法としてあげられます。採食時間帯に全頭を繋留することによって、上位牛の妨害を防ぐことができます。フィードステーションを利用し飼料を追加給与することも有効です。
 また、規模の大きい経営においては、初産牛とその他の牛群での群分けも考えられます。なお、激しい闘争による転倒防止のために、床が滑らないように配慮することも重要です。
 フリーストールやフリーバーンは省力的施設です。今までの作業が省力化され、管理時間が削減されたら、その時間を上手く活用して牛達を観察することが重要です。分娩後の牛群編入時には初産、経産を問わず「編入させたらそれでお終い。」ではなく最低30分間は観察をしましょう。
引用文献
1) 佐藤衆介:フリーストール牛舎における乳牛の行動的問題、畜産の研究(1994)、48(8)、845〜850
2) 上田允祥:フリーストール施設導入農家経営の現状と牛群行動特性を活用した管理技術に関する一考察(2)、畜産の研究(1996)、50(11)、1202〜1209