近年、イタリアンライグラスを飼料基盤とする畜産経営においてロールベールラップ体系を中心として規模拡大が進み、出穂期刈による通年サイレージ体系が定着している。イタリアンライグラスは高品質、多収な牧草として全国で約6万6千ha栽培されている重要な牧草であるが、倒伏による収穫ロスや能率および品質低下が大きな問題となっている。「ワセアオバ」、「タチワセ」等の既存品種は多収であるが耐倒伏性は不十分であり、近年育成された「ニオウダチ」は実用レベルの耐倒伏性を持っているが、収量がやや低い。自給率の向上のためには、作付面積の増加とともに、多収品種の利用による単収向上が必要であり、耐倒伏性と収量性を兼ね備えた新品種の育成が求められていた。
1.育種目的
 耐倒伏性が強く、多収な早生品種を育成する。
2.育成経過
 旧茨城県畜産試験場で育成した極早生〜中生系統を交配させた集団を2世代選抜し、得られた系統に早生の6品種系統を加えた集団から1世代選抜を行い、得られた38系統から生産力検定で収量の高く早生の系統を2系統選抜し、その種子を等量混合して「友系27号」を育成した。
 3年間の系統適応性検定試験及び特性検定試験の結果、優れた特性が新品種候補系統審査会で認められ、平成16年にイタリアンライグラス農林20号「はたあおば」として登録された(図1)。
3.「はたあおば」の特性
1) 適地における乾物収量は「ニオウダチ」と比較して1番草で112%、2番草までで108%と多収であり、「ワセアオバ」および「タチワセ」と同程度である(表1、表2)。
2) 耐倒伏性は「ニオウダチ」と同等であり、「ワセアオバ」および「タチワセ」より強い(図2、表3)。
3) 出穂始日は「ニオウダチ」、「ワセアオバ」と同程度である(表4)。
4) 乾物率は「ニオウダチ」より高く、「ワセアオバ」より低い(表4)。
5) 草丈は「ニオウダチ」と同程度で「ワセアオバ」より低い(表4)。
6) 耐雪性は、“弱”である(表5)。
7) 冠さび病抵抗性は“中”である(表5)。
8) 採種量は「ニオウダチ」、「ワセアオバ」と同程度かやや多い(表6)。
9) ADF含量、粗タンパク質含量、乾物分解率  についてはいずれも「ニオウダチ」、「ワセアオバ」、「タチワセ」と同程度である(表6)。





図2 はたあおばとワセアオバの倒伏状況
          左:はたあおば     右:ワセアオバ










4.栽培上の留意点
1) 東北南部から関東東海および中国、四国までの積雪の少ない地域(およその目安は根雪期間40日程度まで)に適する。
2) いもち病抵抗性は弱いので早播きはさける。

5.種子の普及
 (独)家畜改良センター長野牧場およびアメリカ合衆国で種子増殖を行い、平成18年から種苗会社等を通じて市販される予定である。本県の風土に適した早生の耐倒伏性多収品種であり、広範に利用されることを希望します。




 (社)日本草地畜産種子協会発行の「グラス&シード」誌第13号(2004.9)に、表題のような記事が掲載されています。草種の記載はありませんが、イタリアンライグラスを対象にしたものと判断されます。優良品種導入によって1,848円の経済効果があるという試算例です。数字はいずれも10a当たりです。