1 はじめに
 牛舎内の敷料はオガクズ等の価格の高騰により、 種々の代替品が検討されている。また、フリーストール牛舎では、オガクズを敷料として使用した場合、環境性乳房炎の発生事例が多くなることが 報告されており衛生状態の悪化が懸念されている。こうしたことから、一部の農家では堆肥を敷料としてフリーストール牛舎のベッドや通路に戻し利用することが行われている。当センターでは堆肥を敷料として使用した場合の衛生状態を、大腸菌群を指標として調査し、オガクズ等の代替敷料としての可能性を実地レベルの試験やコストの比較を通して検討した。
2 試験方法
1)フリーストール牛舎を導入している農家について、牛舎の通路とベッドに使用している敷料中の大腸菌群数の調査を行った。大腸菌群は大腸菌をはじめ環境性乳房炎の原因菌とされるクレブシエラ属菌など多くの腸内細菌科に属する菌種を含み、環境衛生上の汚染指標菌と考えられている。また、新たにフリーストール牛舎を導入した農家について導入前後の乳質の変化を調査した。
2)実際の牛舎のふん混じりの敷料中の大腸菌群数の推移を調査するため、牛ふんに堆肥、オガクズ、110 風乾堆肥を混ぜた試料を人工的に調整し、1日毎に大腸菌群数の推移を調査した。また、当センターのフリーストール牛舎のベッドに戻し堆肥区、オガクズ区、山砂区を設定して敷料中の大腸菌群数の推移を調査した。
3)戻し堆肥を生産するための施設や費用を試算した。この場合堆肥化施設(堆肥舎等)はすでにあり、水分60%程度の堆肥が生産されているものとした。オガクズと山砂について購入単価から1頭1日当たりの費用を算出し比較した。
3 得られた成果及び考察
1)農家実態調査
 フリーストール牛舎導入農家を調査したところ敷料に戻し堆肥を使用し管理状態の良い農家での大腸菌群の検出は、使用していない農家に比べて少なかった(表1)。また、フリーストール牛舎導入後から戻し堆肥の使用を続けている一軒の農家では、乳質は安定しており戻し堆肥利用による衛生的な問題は見られなかった。

表1 敷料中の大腸菌群数
(個/g)
農家No. ベット(敷料) 通路(敷料) フリーバン(敷料) 調査日
1 5.0×102(堆肥)
7.6×102(堆肥)
7.0×103(堆肥)
1.4×104(堆肥)

H12.11.1
 13.7.18
2 3.2×104(山砂) 2.4×105(オガ)
 12.11.1
3 1.4×106(堆肥)
  -   (山砂)
1.6×106(オガ)

12.11.1
 12.11.1
4 4.0×104(堆肥) 1.2×105(堆肥) 6.5×104(堆肥)  13.3.28
5 6.6×103(山砂)
3.3×106(なし)  13.7.18
6 1.2×104(堆肥) 5.0×102(堆肥)
 13.7.27
7 1.1×106(オガ)
4.5×105(オガ)
2.5×105(オガ)
2.5×105(オガ)
1.7×106(オガ)
2.3×105(オガ)
3.8×105(オガ)
1.4×105(オガ)

 12.12.13
 12.12.13
 13.7.24
 13.11.21
注)-:検出限界以下。戻し堆肥のベットへの使用状況:No.1の農家は管理が良くベット敷料は2日に一回交換する。縦型コンポ使用。No3は管理状態が悪く、月に一回程度の補充。堆肥舎使用。No4は堆肥とオガクズを混ぜ毎日補充。横型コンポ使用。No6は縦型コンポで製造した堆肥を敷料が減少したベットに補充。



2)敷料中の大腸菌群の増殖
 牛ふん混じりの敷料を人工的に調整し、大腸菌群数の推移を調査した結果、オガクズと風乾堆肥 を敷料に用いた試験区では1日後には菌数が急激 に増加し、オガクズ区では109個以上になったが、堆肥を用いた区では菌数は3.7×107個となり、オガクズに比べかなり少ないことが観察された(図1)。110 風乾堆肥を用いた区でも1日後に1.9×108個となり菌数は増加することから、堆肥中の微生物が大腸菌群の増殖を抑制しているのではないかと考えられた。堆肥中の大腸菌群が増殖しない原因として、菌の相互作用や堆肥中の微生物が抗菌作用を持つ物質を産生していることなどが推察されている。

 また、畜産センターのフリーストール牛舎のベ ッド敷料にオガクズと戻し堆肥、山砂を使った試験では、試験開始8日後から菌数の差が大きくな った。敷料1g中の大腸菌群数はオガクズ区で最大3.6×107個になったのに対し、戻し堆肥区で3.8×105個、山砂区で3.9×105個であった。戻し堆肥を牛舎のベッドに使用した場合、大腸菌群はオガクズに比べ増殖が少なかった(図2)。

3)敷料費のコスト比較
 フリーストール牛舎は100頭規模で、ベッドの容積は0.5m3とし、敷料は10日間で交換することとした。山砂は現実的に30日間で交換するとした場合、この条件では戻し堆肥、オガクズは1頭当たり1日50L、山砂は16.7L使用(補充)していると考えられる。 敷料としてオガクズ使用の場合の1頭1日当たりの オガクズ費用はオガクズの単価1,500円/m3とすると75円となり、山砂使用の場合は山砂の単価1,500円/m3とすると25円となった。 これに対し戻し堆肥利用の場合、戻し堆肥必要量 を10日間で製造する乾燥ハウスを考え、戻し堆肥製造費用を試算すると、1頭1日当たり59.3円となり、戻し堆肥の製造単価は1,187円/m3となった。戻し堆肥を敷料とする場合、1頭1日当たりの費用はオガクズよりも低くなった。また、ふん尿処理まで含めた費用を比較すると戻し堆肥が一番低くなった(表2)。
4 まとめ
 良質の堆肥を生産する基本は、1栄養分、2水分、3空気、4微生物、5温度、6堆肥化期間と言われている。戻し堆肥を作るには、まず、それ らの条件を充分に満たす方法で堆肥を製造する必要がある。水分(比重)調整をし、撹拌や切り返しにより温度が60〜70 位に上昇した堆肥は病原菌の心配もなくなり望ましい。さらに、良く腐熟した堆肥をビニールハウス等を使用して水分40〜50%程度に調整する。水分を下げることでふん尿処理の水分調整材としても利用しやすくなる。  これまでの調査から、発酵温度が高く充分腐熟した堆肥をベッドに戻し利用することは衛生的にも問題がなく、堆肥化の施設が有り良質な堆肥を製造している生産者では、戻し堆肥を作って利用した方がオガクズを購入するよりも敷料のコストは低くなった。
 戻し堆肥はフリーストール牛舎のベッドやフリ ーバーン牛床の敷料として利用することが多い。実際の利用法として、ベッドに戻し堆肥を一杯に敷き、牛がかき出した分だけ補充するやり方が多い。通路に落ちた堆肥はそのままふん尿と混合され処理施設で堆肥化される。戻し堆肥を利用することで、敷料費や水分調整材などの資材費の軽減や牛舎の臭気の低減などが期待できる。  なお、堆肥の塩類濃度の上昇を抑えるために、戻し堆肥としての利用は生産した堆肥の半分以内が望ましい。

表2 1頭1日当たりの敷料費用
(円)
ベット敷料 戻し堆肥 オガクズ 山砂
10日(山砂は30日)で交換した場合の敷料費@ 59.3 75.0 25.0
ふん尿の水分調整用オガクズ費A 86.4 90.0 165.0
ふん尿処理まで含めた費用@+A 145.7 165.0 190.0
注)ふん尿量を一日55g・水分90%、オガクズ水分20%・容積量200kg/m3として計算。
ふん尿をオガクズで水分70%に調整する。山砂は調整材料としない。ふん尿調整用オガクズと山砂は1,500円/m3で計算した。