近年、食生活が豊かになるにつれて食品に対する消費者の要求は「健康に良く、安全で安心できる」ものを求める傾向が強まってきています。
 一方、生産者においても、飼料、素豚、飼養方法を工夫した「地域銘柄豚づくり」が各地で行われています。当研究所においても、特徴を持った豚肉、言い換えれば付加価値の付いた豚肉を開発するため、「高付加価値豚肉生産試験」を4年間にわたり実施してきました。この試験が昨年度を以て終了しましたので、その概要をお知らせします。
 「荏胡麻(エゴマ)」ってご存じですか。シソ科の植物で、この実を絞ってあの超高級な「エゴマ油(荏の油)」として売られています。このエゴマ油に含まれるα-リノレン酸がとても健康に良いのです。理由を説明しますと、家庭で一般的に使われている植物性油脂(サラダ油、コーン油等)には多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、血中コレステロール濃度を低下させる作用があることから成人病の予防に効果があるとされています。しかし最近になって大腸癌、乳癌、心筋梗塞、アレルギー等を促進する事が分かってきました。そこで注目されたのがα−リノレン酸で、これら疾病の促進作用に対し拮抗的に働くことが明らかになってきています。要するにα−リノレン酸を多く含む不飽和脂肪酸は成人病の予防と大腸癌、乳癌、心筋梗塞、アレルギー等の発生を抑えることが出来るということです。
 そこで、とても体によいα-リノレン酸を多く含んだ豚肉を造ることが出来たら・・と考え、荏胡麻の絞り粕(以下、「荏胡麻粕」。荏胡麻そのものは高価なので、未利用となっている絞り粕を資源として活用する。)を豚のエサに混ぜ、どの時期に、どのくらい荏胡麻粕を給与すると、α−リノレン酸が豚肉にどれくらい移行するかを研究しました。結果は次のとおりです。
 供試豚45頭を6グループに分け、それぞれ荏胡麻粕をエサに対し2.5%、5%、10%の割合で、と畜前1週間、2週間、3週間、4週間給与しました。すると、5%で3週間給与したグループは、給与しなかったグループに比べα−リノレン酸がおおよそ2倍に増加しました。因みに10%で4週間給与し続けると5倍に増加します。ただし、あまり不飽和脂肪酸が多くなると軟脂(脂肪の融点が低くなり格落ちの原因となる)になりやすいので5%で3週間の給与が妥当だと思われます。
 これで、健康に良い豚肉が出来た!と思いきや、実は不飽和脂肪酸は酸化されやすく、せっかくの豚肉が日持ちしない(品質保持が困難)ことが予想されてきたのです。そこで、酸化を防ぐことが出来るものとしてビタミンEという物質が見つかりました。
 このビタミンEの効果は牛ではすでに研究されていて、牛肉の品質保持に有効であることが証明されています。しかし豚肉については殆ど研究されていませんので、ビタミンEが豚肉の品質保持に有効かどうか試験する必要が出てきました。結果は次のとおりです。
 供試豚49頭を9グループに分け、ビタミンEを300、600、900、1200mg/kg添加した飼料を、と畜前1週間、2週間、4週間給与したところ、ロース肉中のビタミンEは、600r/s以上の量を4週間添加したグループでは、添加しなかったグループの約2〜3倍の濃度になりました。また、冷蔵庫に何日か置いたときに流れ出る肉汁(ドリップ)を抑える効果や肉の脂肪の酸化を抑える効果も確認できました。
 以上の結果から、荏胡麻粕とビタミンEの同時給与で、良いとこ取りの豚肉が作れないか研究を始めました。供試豚24頭を用い、荏胡麻粕5%+ビタミンE1%、荏胡麻粕5%、通常のエサの3グループに分け、と畜3週間前から給与し始めました。すると、予想どおり、荏胡麻粕5%+ビタミンE1%と荏胡麻粕5%のみを給与したグループは通常のエサのグループに比べα−リノレン酸の増加が認められました。また、荏胡麻粕5%+ビタミンE1%のグループは他のグループと比べ、肉の保水性(肉のジュ−シーさを保つ力)が優れており、熱を加えても肉汁が逃げず、ジューシーさが保たれました。
 余談にはなりますが、「活性酸素」ってご存じですか?
 「活性酸素」は体内の酸素が紫外線などで活性化し、その強い酸化作用により、皮膚にシミやシワを作ったり、老化を早めたり血流障害や癌などを引き起こす酸素のことです。この「活性酸素」に対抗できるのがビタミンEなのです。ビタミンEは最も良く知られた天然の抗酸化剤で、不足すると体内で「活性酸素」が増え、種々の弊害を引き起こすようになり、今回研究した豚肉を食べるとビタミンEの補充にもなるのです。
 荏胡麻を飼料添加した研究は他県でも行われており、特に福島県では「うつくしまエゴマ豚肉」として販売されています。今後、今回の試験結果を活用して茨城県のものが生産、販売されれば、荏胡麻だけでなくビタミンEも入った豚肉ですから他県より優れたものになると思います。
 いつの日か、茨城県の系統豚「ローズW−2」や「ローズL−2」を使って、茨城の高級付加価値豚「ローズポーク荏胡麻Eスペシャル」なんて言うのはいかがでしょうか。