平成15年度たい肥コンクール表彰式終了後、千葉県銚子市の農事組合法人農業資源活用生産組合代表理事 椎名正隆氏より「耕(キャベツ・ダイコン生産)畜(肉牛生産)連携の実施事例」という演題で講演会が開かれた。示唆に富む内容であったので、その概要を紹介する。

現地の状況
 銚子市は、犬吠埼のある観光地として、また、醤油の生産地、漁業基地として全国的に有名ですが、肉牛の飼養、野菜生産も盛んで、このうち野菜生産は、黒潮の影響で冬場の気温が確保されることで、冬キャベツ出荷の最北地として名を馳せています。

耕畜連携の必然性
 前述の条件は、糞を排出する畜舎、有機物を求める畑の土という関係から、つながりを持つのは必然で、堆肥センターの仲介がない直接のやり取り、簡易な堆肥盤を中継地としたやりとりなどが広がっていました。これらの方法で活用される肉牛の糞であっても、施用適期以外は持て余され、また、生のままの施用は臭気等から嫌われ、野積みによる水系汚染の問題指摘などもあり、これらの解決のため平成8年12月6日堆肥化施設の建設と運営を主目的に「農業生産法人 農業資源活用生産組合」が設立されました。

堆肥舎の建設と活用
 平成10、11年度の畜産環境対策事業により、銚子市高田町に堆肥センターを開設しました。自動切返し装置を備えた発酵槽、熟成、貯蔵に対応する堆肥舎を中心としたこの施設は平成12年春完成しました。周知のとおり、肉牛の畜舎から排出される糞尿は、敷き料として入れたおがくずとの混合物(敷き料に糞尿が吸着されている状態)であり、特別に前処理をしなくとも堆肥化に誘導できる性状です。
 本堆肥センターは、畜産農家からの利用料は徴収しませんが、持込む糞尿は堆肥化の初期条件を満足する水分状態であることを課しています。このようなシステムとすることで、畜産農家から持込まれ発酵槽に投入された糞尿は数日のうちに活発な分解を示すようになり、堆肥化が始まります。活発な分解は途中で水不足を生じます。当初は水補給に海水を用いて堆肥のミネラル補給を図る等の工夫を重ねました。そのころ、キャベツの流通を手がけていた大手スーパーマーケットから、プロセスセンターで発生する野菜等のハネモノ(全てが不良品というわけではない)を堆肥化して畑に還元できないか、と申し込みがありました。畑に残されたキャベツの外葉等は以前からそのまますき込んで支障は見られなかったことから、この申込みを受けて、水分補給用の堆肥原料としてプロセスセンターから野菜・果物類を中心とした食品残渣を受入れることとしました。
 これは、食品リサイクル法施行に一年半ほど先行した挑戦でした。野菜、果物、豆腐等のプロセスセンターのハネモノは、肉牛糞尿の堆肥化工程に混ぜ込むことで、問題なく堆肥化を進められること、肉牛糞尿にとっても熟成が順調になること等が明らかになりました。この時期、食品リサイクル法が成立、そして施行されるのに対応するため、食品循環資源受入れができる廃棄物の中間処理施設の資格を取得することとしました。こちらは、廃棄物関係の法令に則った資格取得であり、時間は要しましたが、無事計画どおり取得できました。この資格取得に基づいて、食品リサイクル法による「登録再生利用事業者」となる申請を行い、平成14年3月最初のグループとして登録されました。

表 食品残渣受入れ前後の堆肥の組成

牛ふん単独 牛ふん+食品残渣
窒素 1.2% 1.5%
リン 1.5% 3.49%
カリ 1.5% 2.97%
水分 47.3% 34.86%
C/N 15 14.13
Ca 2.3%
Mg 0.6%
受入れ動植物残渣の拡大と対応
 食品循環資源の受入れは、次のような効果を持ちます。発生事業者であるスーパーマーケット等が堆肥を利用して生産した野菜類を、積極的に販売しようと取組んでくれることで、生産農家が堆肥を使う意欲が強まります。特に、食の安全、農産物のトレーサビリティが着目される中、食品リサイクル法への対応と、安心生産物の提供とを同時に実現する方法として参加希望事業者は拡大しています。それ以外に施設に持込まれる残渣として、野焼きが許されなくなった土手の刈草、電線保護のため切落とした剪定枝、など次々に増えてきています。堆肥材料としての特性・安全性を常にチェックしながら。農地還元にふさわしいものだけを堆肥化による循環に振り向けています。今後も耕種農家の信頼を受け続けられるよう、農地還元が不適なものについては、堆肥化とは別工程の処分を行うこととします。食品リサイクル法の元締めとも言える農林水産省の食堂から出る残渣をはじめ、多くの事業所からお預かりした食品循環資源は、この耕畜連携に貴重な潤滑効果をもたらすものです。
 すなわち、前に述べたとおり、生産物のトレーサビリティを求める発生事業者の期待は、耕種農家が堆肥を使う動機付けとしての効果を持ちます。また、食品循環資源持込に際し支払われる処理費(これを受ける上で中間処理の資格は欠かせない)は、施設運営に大切な役割を持ちます。従来畜糞だけで堆肥化を計っていた施設は、現金収入が不足して万年赤字の体質となり、結局閉鎖にいたるという事例が数多く見られました。このような失速状況に陥ることが処理費収入により避けられます。もちろんもっと長い目で総括しなければいけないことですが、現在までのところ、この経営改善効果は評価できるものと言えます。

問題点・課題
 ここでご紹介した話がどこまで国内の農畜産業一般の話として通用するかが心配です。平均2ha程度の耕作地を持ち、首都圏の冬野菜という安定した消費が期待できる耕種農家と、規模の効果を持ち、耕地の面積に比べ過剰な飼養頭数にはなっていない肉牛生産、という絶妙のバランスが現在の成功事例の背景です。
 それ以外の問題を列記しましょう。@ハードを納入した業者は、経験不足もあったのでしょうか、自動切返し機の刃が発酵槽側壁にあたってしまうトラブルを未だ解決できていません。送風のための塩ビ配管が高温により変形してしまい、通気システムが機能不全になってしまいました。これについても対応がされていません。A刈草類を持込む業者は、重量ベースの処理費契約になっているため、できるだけ乾かしてから持込もうとします。一旦乾かされた草類を順調に堆肥に誘導するのは厄介なことです。Bもちろん食品残渣等も単純に重量に比例した処理費だと考えて対応される人は、堆肥センターにとつては困り者です。C堆肥の料金は、組合員の野菜売上げから差し引くのを原則にしていますが、キャベツ価格が暴落したりすると、難しくなることがあります。D中間処理施設の資格取得に伴い、トラックスケールを設置しました。そこで正確に計量すると、2t車に積んだ堆肥が2tではないことが判明しました。あおりを立てローダで押して積んだ堆肥の重量は、2tだと称していた今までの記録を大幅に上回りました。かと言って直ぐに規定額を払えというのも難しいことです。

これからの役割
 銚子はこれからも首都圏の貴重な食料供給基地であり続けます、そのことは、食品資源の循環基地でもあり続けることです。この循環の状態をぜひ子供達に実感してもらい、21世紀の循環型社会を自然体で形成していくうえで役立てればと願っています。すでに学校給食の残渣類を受入れている自治体とも協力関係を作っていますが、観光都市銚子が、食の循環拠点銚子でもあることを理解してもらえるよう、努めていきたいと考えています。