家畜排せつ物法は、平成16年10月末には、管理基準の猶予期限が終了し、これに伴い野積み、素掘りなど不適切な管理を行っている事業者には改善命令等の必要な処置が図られることとなる。
 現在、県内畜産農家では家畜排せつ物の野積み、素掘りを解消するため、堆肥化施設や汚水処理施設の整備が進められてる。しかし、未だ堆肥化施設等の整備が間に合わない畜産農家も少なくないと考えられる。今回、当畜産協会では、畜産環境保全指導事業の一貫として県・市町村・畜産団体の職員や畜産農家を集め、栃木県内で行われている2つの処理方式(シート利用・発酵攪拌処理プラント)のたい肥化施設を視察研修した。
 このうち、比較的畜産農家が取り組みやすいシート利用による堆肥化システムを紹介する。
1 シートを利用したシステム
 管理基準の猶予期限切れが迫る中で、経営規模や時間的制約等から、当面の対策として費用が安く、施行が簡単な施設導入が必要と考えられる事から、和牛繁殖経営と酪農経営を研修した。
1)和牛繁殖経営(那須町 成牛16頭、育成牛8頭)は牛舎から搬出した厩肥を副資材と混合し約60%に水分を調整して、堆積高1.5m程度の蒲鉾状に堆積している。畜舎から排出された排せつ物は、その都度堆積している。
 出来上がった堆肥は圃場へ還元している。問題点としては、堆肥から尿が分離して流れ出すので、排水対策が必要となる。資材費(シート)100u当たり上覆い36,000円、下敷き70,000円との事である。
2)酪農経営(塩原町 成牛70頭、育成牛30頭、飼料畑1,470a)フリーストール牛舎から排出された糞尿を副資材(バーク)で約70%に水分調整を行い堆肥盤に堆積、防水シートで被覆し、切りかえしを行い、堆肥は圃場還元している。
3)酪農経営・和牛繁殖経営の場合も畜舎から搬出した厩肥の水分調整を行い堆積し発酵を行っている。堆積物から尿等の水分が流れ出し、地下水汚染の危険性が有るので、貯留槽の設置が不可欠であると共に水分の処理方法の検討が必要である。
 今回訪問した経営体は、いずれも牧草地や飼料畑を所有し、生産された堆肥を自己圃場還元で利用している。シート利用で堆積発酵を行った堆肥の販売は、多額の資金を投入した発酵施設で製造した物に対して不利であると考えられるが、管理基準の猶予期限切れの対策として導入する場合や飼料畑等の堆肥施用地のある経営体で導入する場合には有効な方式と考えられた。
2 シート利用堆肥化施設の概要
 シートによる堆肥化は、堆肥盤もしくは下敷(不浸透性)シート上に家畜排せつ物を堆積し、被覆(防水性・通気性・透湿性のある)シートで覆う方法で、排汁の地下浸透や河川流出を防止できる堆肥化システムといえる。
 シートによる堆肥化は、攪拌発酵施設に比べ効率的な酸素供給が難しいため、堆肥化期間はやや長くなり、品質のばらつきもやや大きくなる。
 しかし堆積期間を延長したり、切り返しを行うことによって、十分利用可能な堆肥をつくることができる。また、既存堆肥化施設の補完的な施設としてや完成堆肥のストックヤードとしても利用できる。
3 施工手順
1)整地と雨水流入防止のための土手の設置
@雨水が貯まらないところを選び整地。
A下敷シート破損の原因となる石礫や小石を除去。
B排汁回収のため勾配を設ける(2%程度)。
C排汁回収のための集水管設置用溝を堀る。
D雨水が流入しないよう周囲に土手を設置する。
2)下敷(不浸透性)シートと集水管の設置
@余裕を持って下敷シートを設置する。
A集水管を設置し目詰まり防止を行う。
3)床土の設置(鎮圧・整地)
床土を30〜50cm程度敷き詰め、沈下しなくなるまで鎮圧する。
4)排汁貯留槽の設置
5)堆肥化材料の水分調整と搬入・堆積
 家畜排せつ物と副資材を混合し、水分を牛ふんの場合約70%以下。豚・鶏ふんの場合約60%以下とし、各々容積重700Kg/m3以下を目安に調整し、堆積する高さは概ね1.5m程度とする。
6)通気管やブロアーの設置
 通気管を設置する場合は、暗渠管を堆積する山の長辺に対し直角に設置し、両端は山の外側に解放する。
7)被覆シー卜の設置と固定
@窪みができないよう堆積した山を成形する。
A被覆シートで堆積した山を覆う。
B古タイヤ、土のう、マイカー線、防鳥網、園芸用ネット等でシートを固定する。
4 留意事項
1)水分調整(容積重の調整)
 副資材を混合し、容積重で700kg/m3以下に調整する。
2)通気
 被覆シートは通気性や透湿性の素材や微細孔付きの素材が市販され、堆積表面の好気発酵が可能とされているが、堆積した内部の好気発酵は不十分となる。通常の堆肥化施設で行う切り返し、機械攪拌、強制通気などの方法は構造やコスト面で事実上不可能である。
@ローダーによる切り返しは、よう壁がないので作業が難しい、下敷シートが痛む等の問題点がある。
A暗渠管設置による通気の効果は暗渠管周辺に限られる。
Bブロアーによる通気は、通気の効果が十分期待できる。ブロアー設置関連費用がかかり、電源が必要なため、設置場所が畜舎周辺などに限られる。
3)排汁の処理
 堆肥化初期では、太陽熱や発酵熱による蒸散が少ないため排汁が大量に出る。このため集水管を設置し、排汁を貯留槽に貯留する。
4)雨水の流入防止
 雨水が流入しない高い場所に設置するか、設置場所の廻りに雨水流入防止用の土手を設置する。また、被覆シートは必ず不浸透性シートの外側まで設置し、雨水が堆積した山の上に貯まらないよう凸状に被覆する必要がある。
5)風対策
 被覆シートが風で煽られると、堆肥に雨が当たり野積み状態となり、また、シートが破れやすくなるため風対策が必要となる。被覆シートの固定には以下のような工夫がされている。
 @古タイヤ・土のうによる固定。
 Aマイカー線やロープによる固定。
 B防鳥網・園芸用ネットによる固定。
5 設置規模の目安
 必要となる敷地面積とシートの長さは、家畜排せつ物量、水分、混合する副資材の種類、堆積期間等によって決まる。参考までに、畜種別に必要敷地面積とシートの長さを示すと表のとおりとなる。
表 家畜一頭あたりの設置規模の目安
家 畜 1頭当たりの
堆肥化容積
堆積高 堆積幅 必要となる
敷地面積
必要となる
シート長
乳 牛 13m3 1.5m 3.4m
4.0m
5.2m
15m2
14m2
12m2
4.5m
3.5m
2.3m
肥育牛
(繁殖牛)
6m3 1.5m 3.4m
4.0m
5.2m
7.1m2
6.4m2
5.7m2
2.1m
1.6m
1.1m
母 豚
(肥育豚10頭含む)
8m3 1.5m 3.4m
4.0m
5.2m
9.5m2
8.4m2
7.3m2
2.8m
2.1m
1.4m