はじめに 平成15年7月に系統豚として認定を受けた大ヨークシャー種系統豚ローズW−2(以下、「ローズW−2」という。)の途中世代豚(第5世代)の繁殖成績は、1腹平均産子数が9.2頭、離乳時育成率は91.8%でした。また、産肉成績においても1日平均増体重(DG)は雄が987 g、雌が875 g、背脂肪層の厚さ(体長の1/2部位)は雄が1.29 cm、雌が1.51 cm、ロース断面積(体長の1/2部位)は雄が33.3cm2、雌が34.4 cm2でした。これらの成績は国内の肉豚生産の主体をなす三元交雑種(LW・D)の生産母豚であるLW雌豚と同様の成績です。 大ヨークシャー種(以下、「W」という。)は一般に、LW種雌豚生産用の種雄豚として利用され、雌豚は肥育に回されることが多く、繁殖素畜としてLW雌豚より低価格の傾向になっています。そこでローズW−2の雌豚を有効に活用し、高品質の肉豚を低コストで生産することを目的として系統造成中のローズW−2の雌豚にデュロック種雄豚(サクラ201)を交配し、その繁殖性の調査を行いました。さらに、生産されたWDの肥育調査、枝肉形質調査、肉質調査および経済性について調査し、LW・Dとの比較・検討を行いました。 1.W種雌豚の繁殖性調査 ローズW−2の造成途中世代(第2〜4世代)雌豚(以下、「W種雌豚」という。)延べ25頭にD種雄豚(サクラ201)を交配し、一腹平均生産子豚数、生時体重、3週齢時体重及び離乳時育成率を調査しました。 2.WDの肥育調査 WD135頭(雌60頭、去勢75頭)を用い、体重30kg〜105kgまでのDG、生時〜105kgまでの1日平均増体重(TDG)、また体重30kgおよび105kgまでの到達日齢について調査しました。 飼養方法は4〜6頭の群飼とし、飼料は不断給餌で行いました。また、体重70kgを目安に、肥育前期用飼料(TDN 78%、DCP 14%)から肥育後期用飼料(TDN 76%、DCP 11.5%)に切り替えました。 3.WDの枝肉形質および肉質調査 WD60頭(雌28頭、去勢32頭)を用い、体重が105 kgに到達した時点でと殺し、4℃の冷蔵庫内で約12時間放冷した後、肉質および枝肉形質の調査を行いました。 肉質については、保水性、pH及び脂肪融点(皮下脂肪外層、皮下脂肪内層、腎臓周囲脂肪)を、枝肉形質については、豚産肉能力検定実施要領に基づき、と体長、背腰長U、と体幅、ロース長、ロース断面積、肉色、ハムの割合および脂肪層の厚さについて測定しました。 なお,LW・Dの成績は、当所で行った高付加価値豚肉生産試験の対照区の成績を用いました。 4.WDの経済性調査 WD75頭(雌33頭、去勢42頭)を用い、生体重110kgを目安に茨城県中央食肉公社に出荷し、枝肉重量、歩留まり、枝肉格付けおよび枝肉販売価格を調査しました。 1.W種雌豚の繁殖成績 一腹平均生産子豚数は9.6頭、生時体重は1.6kg、3週齢時体重は5.4kg、離乳時育成率は94.6%でした。 表1 繁殖成績
初産豚は経産豚と比較し、一般に産子数が少ない傾向にあります。今回の調査ではW種雌豚25頭(延べ)中13頭が初産豚でしたので、その点を考慮しますとLW等の肉豚生産母豚と同様の結果であったと考えられます。 2.WDの肥育成績 30kgおよび105kg到達日齢はそれぞれ69.2日および171.9日、DGおよびTDGはそれぞれ738.9gおよび615.4gでした。体重30kgは肥育前期にあたり、子豚成長の1つの目安とされており、発育が遅延すると肉質にも悪影響を及ぼすとされています。今回のWDの体重30kgおよび105kgへの到達日齢並びにDGはLW・D等の一般的な肉豚や当所でLW・Dを用いた飼料試験の対照区の成績とほぼ同じ結果となりました。 また、今回の試験ではローズW−2の途中世代豚を用いましたが、DGの成績は世代ごとに向上しています。このため,系統造成終了後のW−2の種雌豚を用いてWDを生産すればDGがさらに向上するものと思われます。 表2 肥育成績
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3.WDの枝肉形質調査 肉量推定の基準であるハムの割合、ロース長、ロース断面積および肉色はLW・Dと同程度でした。背脂肪層の厚さは「肩」の部分の脂肪層がLW・Dと比較して厚い傾向にありましたが「背」は2.1cmと同じ厚さであり、枝肉格付けの「上」の範囲内でした。しかし、腹脂肪層の厚さは平均で2.0cmでしたが1.0cm以下と極端に薄い個体も散見されました。 背脂肪と腹脂肪の厚さには正の相関があります。一方、今回のWDの枝肉形質調査では腹脂肪が薄い個体であっても、その半数以上は背脂肪が薄くはなく、正常な厚さになっていました。 表3 枝肉成績
4.WDの肉質成績 好ましい肉の指標値は保水性60%以上、pH5.5以上と言われております。今回の成績は保水性が58.3%、pHが5.5でしたので好ましい肉の指標値を概ね満たしていました。 脂肪の質を調べるため脂肪の融点を測定した結果、皮下脂肪外層は33.4 ℃、皮下脂肪内層は39.1 ℃、腎臓周囲脂肪は44.9 ℃でした。当所で行なったLW・Dを用いた飼料試験の対照区の成績と比較すると若干低い傾向ではありましたが、脂肪の質に問題はないといえます。 表4 肉質
5.WDの経済性 枝肉の格付け結果は「上」が26頭(34.7%)、「中」が36頭(48.0%)、および「並」が13頭(17.3%)でした。 今回の試験における欠格要因として最も多かったのは腹脂肪層が薄いこと(腹薄:34.7%)によるもので、次いで背脂肪層が薄い(背薄:14.3%)、脂肪層が体側面等全体を覆い沈着している状態(被覆:14.3%)でした。 表5 経済性
参考までに全国の格付け結果(平成14年1月〜12月)からみた欠格要因は厚脂(腰・肩)が23.0%、均称・肉づきが22.0%、被覆が20.5%、背薄が18.9%、腹薄が8.2%、その他が7.4%でした。 豚産肉能力検定成績および豚遺伝能力評価(日本種豚登録協会)等を利用し、雌雄ともに産肉および遺伝能力が明らかな個体を用いることが重要です。また、WDの肉豚を出荷した際には枝肉格付け明細書を精査し、交配および飼養管理を検討することにより二元交雑種(WD)を三元交雑種と同様に利用することは十分可能であると考えられます。 |