畜産農家で使われる動物用医薬品(動物薬)のなかには、適正に使用しないと家畜の肉、卵、乳などを通じ人の健康を害する怖れのあるものがあります。
 例えば「薬剤耐性菌」はヒトの医療分野で大きな問題となっていますが、その原因の一つとして、不適切に使用された抗菌性物質の畜産物への残留が考えられています。
 こうした動物薬は薬剤毎に「使用基準」があり、「休薬期間」・「出荷制限期間」などが決まっていて、決められた用法・用量を守ればこの期間以後に家畜等を出荷しても問題ありません。(ただし、投与量や投与法等が不適切だとこの期間以後も残留が認められる可能性があります。)
 残念なことに、食肉衛生検査所から食肉中の抗菌性物質残留の報告が寄せられることがあり、当該生産農家に確認すると「注射日を勘違いした」「別の群の家畜と間違えた」「出荷制限期間を別の薬剤と同じと思った」などの理由があげられることが多いようです。
 そこで本年4月28日に施行された「動物用医薬品の使用に関する省令の一部を改正する省令」により、「使用基準」のある動物薬を使用する人は以下の6項目について記録し、それを保存するよう努めなければならないこととなりました。
@使用した年月日
A使用した場所
B家畜の種類、頭羽数、特徴
   (性別、毛色、名号、耳標No等)
C医薬品の名称
D医薬品の用法・用量
E出荷することができる年月日

 具体的な記録の様式は決まっていませんので、獣医師の方は診療簿に上記の内容を記載することで、また、使用農家の方は獣医師の指示書に必要事項を追加することで帳簿への記載に代えることもできます。
 また,飼料が原因で有害な畜産物が生産された(疑いがある)場合に備え、原因物質の特定や当該飼料の流通防止を図るために、本年5月以降には飼料を使用した際には上記とほぼ同様の内容(@〜Dは同じ、Eのみ「飼料納入年月日・納入先」)を記録し保存することとなりました。
 一方、ワクチンや抗生物質等を注射する際に、家畜が暴れたりして注射針が折れ、家畜の筋肉内に残留する事故が起きることがあります。
 事故が起きないよう注意することが一番ですが、起きてしまった場合は、その家畜にきちんとマークをつけておき、出荷時にあらかじめ食肉処理場にその旨を伝え、解体時に除去できるようにしなくてはなりません。
 そうしないと解体・精肉作業時の事故の怖れはもちろん、残留した針がそのまま流通ルートに乗って消費者まで渡っては大変な問題になります。
 抗菌性物質であれ、注射針であれ絶対に食肉中にあってはならないものです。
 一昨年のBSE発生とその後の牛肉偽装問題などによって失われた食の安全性に対する信頼を回復するため、消費者が求める良質で安全な畜産物生産に向けて関係者一丸となって取り組まなくてはなりません。