1999年9月,先進国アメリカのニューヨークで発生したウエストナイル感染症は,年を追うごとに国中に広がり,2003年2月末現在,4,071人が感染し,247人の死亡が報告されています。
 ウエストナイルウイルスは1937年にウガンダのウエストナイル州で分離されたウイルスで,日本脳炎ウイルスと同じ血清グループに含まれます。吸血昆虫(蚊)の媒介が主な伝播経路であり,中枢神経症状を主な臨床症状とするのは日本脳炎と同じですが,日本脳炎が豚に感染し人や馬に流行するのに対し,ウエストナイルウイルスは鳥を宿主として人や馬に流行したと考えられています。実際,アメリカの流行地域では多数の野鳥(カラス)が発症し死亡しているのが確認されています。

 ニューヨークにおけるウエストナイル感染症の発生原因は明らかにされていませんが,野鳥の密輸入,大都市でのカラスの繁殖,地球温暖化による媒介昆虫の大発生などが流行の要因であると推測されています。これらの要因に加え,日本には世界有数の渡り鳥の飛来地が存在していることから,ウエストナイルウイルスの侵入防止には一層の危機感をもって対処していかなければならず,輸入動物の監視・検疫体制の強化とともに全国的なサーベイランスを開始することになりました。
 ウエストナイル感染症予防のためには,媒介動物である蚊や死亡した野鳥を継続的に調査して,情報として常に提供できる体制を整えておくことが必要です。そのため,厚生労働省と農林水産省が同時に調査を開始することになり,国の研究機関,保健所及び家畜保健衛生所が連携しサーベイランスを行います。
 農林水産省は,農村地域で調査を行うことになり,家畜保健衛生所は蚊及び死亡野鳥の検査を実施します。蚊の発生時期である6月〜10月の間,管内の家畜飼養農家において継続的に蚊を捕獲し,分類・同定後,動物衛生研究所に送付しウイルス分離を実施し,農村地域の死亡野鳥についても,蚊と同様に動物衛生研究所でウイルス分離を実施します。また,馬については,臨床獣医師及び飼養者と連携し,運動失調などの異常が認められる馬の早期発見に努めていきます。
 現在のところ,ウエストナイル感染症に対するワクチンは馬用の不活化ワクチンのみで,感染を防ぐには蚊に刺されないこと,蚊の繁殖を抑えることしかありません。従って,ウイルスの侵入防止には細心の注意を払わなければならず,サーベイランスの実施により,監視体制の強化が図られると考えられます。