茨城県の最南部、利根川沿いに位置する河内町に高橋牧場はある。牧場の歴史は、昭和のはじめに牧場主高橋和夫さん(52歳)の祖父が開拓でこの地に入り、3頭の乳牛を導入したことに始まる。現在は経産牛40頭、未経産牛8頭を飼養し、高橋さん夫婦と高橋さんの母の3人で日々の作業に従事している。 高橋牧場の特色の1つは、利根川河川敷を有効利用した酪農経営である。この地区では、30年程前から国から河川敷を借り受けて牛の放牧を行っている。 牛達は朝搾乳を終えると直ぐに牛舎を離れて数百メートル先の河川敷に出て行く。河川敷までは一般車の通行を妨げないように高橋さんが牛達を誘導するが、その後牛達は、草を食べ自由に寝そべりくつろいでいる。そして夕方の搾乳時間になると再び牛舎に戻り、搾乳を終えると、またそこに体を休めに出て行く。牛達は1日の大半を河川敷で過ごすため、その間に牛舎の掃除も行き届き、牛床は常に乾燥している状態にあるのだという。現在では他にも7戸の酪農家がこの河川敷を共同で利用している。 高橋さんは、繋ぎ飼いの牛達にとって日課である河川敷への往復とそこでの運動が、牛達の足腰を丈夫にすると同時にストレスの解消にも役立っているという。現在この牧場の平均産次は4.2産、全国的に見てもかなり高いレベルにある。遺伝的な要因もあるが、日々の適度な運動が牛を長持ちさせる要因の1つになっていることが伺える。また高橋さんは、河川敷まで牛達を誘導する間、発情や肢蹄病等をいち早く発見でき、削蹄作業等も容易に済ますことができるのも河川敷放牧の利点だと話す。 |
現在高橋牧場では4産次以上の牛が搾乳牛の半数以上を占める。その中に15歳(昭和62年生れ)で13産している牛が現在もなお現役で活躍している。この牛は当時県内の家畜商から導入した牛の娘牛(名号「グレン テルスター プライド 2」)で、残念ながら書類不備により無登録牛であったため、エクセレント牛に値する体型を備えていたが体型審査を受審することができず「幻のエクセレント牛」となってしまった。 現在は乳器の形状はやや崩れているものの、しっかりとしたフレームと力強い肢は未だに健在である。本牛は、12産までに総乳量118,651kg(平均乳量31.1kg/日)を搾り、平均乳脂率3.4%・蛋白質率2.9%・無脂固形分率8.3%、体細胞数に至っては平均で13万個/ml以下というすばらしい成績を持っている。また、繁殖性にも富み、平均分娩間隔371日・空胎日数97日・授精回数1.4回という優れた能力を備えている。 当初は決して泌乳能力のある牛ではなかったが、産次を重ねる毎に徐々に秘めた能力を発揮するようになり、5産以降乳量は1万キロを突破するまでになった。また、疾病・怪我等も殆どないとにかく丈夫でよく働いてくれる牛と高橋さんは少々誇らしげに話す。 現在牛群には、本牛の血を受け継ぐ娘牛は僅か2頭(4産・5産)しか残っていないが、いずれも牛群の中でトップクラスの乳量を誇り高橋牧場の経営に大きく貢献している。 高橋さんは自らの酪農経営についてこう語る。「とりわけ特別なことをしている訳ではない。ただ牛も人と同じ「生きもの」、人にとって不快なこと心地よいことは牛のとっても同じこと、そういう気持ちを忘れずに日々の管理に努めている」と。そして、高橋さんは牛飼い3代目として、丈夫で健康な牛づくりを基本に掲げ、小規模でも楽しみ・夢のある酪農を目指している。 |
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<12産次までの生涯成績>
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