「畜産茨城」第345号において、乳用牛における代謝プロファイルテスト(MTP)の概要を掲載しましたが、今回はその具体的事例について述べます。
 酪農組合の獣医師より依頼があり、平成13年2月にMTPおよび飼料計算を行いました。 対象農家については以下の通りです。なお、繁殖成績については、酪農組合の獣医師が実施してい繁殖検診によるものです。

検査農家:県北管内酪農家A、牛群検定未実施
飼養形態パーラー搾乳、泌乳牛群は
フリーバーン形式、乾乳牛群が半放牧
産乳成績:検査時のバルク乳個体平均乳量27kg
無脂固形分率8.71%、乳脂肪肪率3.77%
繁殖成績:(平成13年1月現在の牛群平均)
JMR21.2、分娩間隔14.2ヶ月、
初回授精日数87日、受胎日数152日、
授精回数1.67回、平均産次3.0産

 泌乳牛群の飼料給与形態は、TMR(混合飼料)を1日2回一律給与であった。 TMR調整は基本的に購入飼料を主体として、自給飼料を添加していた。 調整内容は日量で乾草類(3種類)6.5kg、泌乳期用配合飼料14kg、トウモロコシサイレージ5kg、ビール粕5kg、醤油粕1s、圧ペントウモロコシ0.3s、カルシウム・リンの添加剤リ0.2s、魚粉0.15sとしていた。 日本飼養標準に沿し飼料計算をしたところ、設定乳量33s、充足率で蛋白質118%、可消化養分総量102%、カルシウム109%、リン115%、蛋白質中の非分解性蛋白質35%、乾物中粗繊維18.3%、粗脂肪4.9%、NDF41%、NFC31.4%であった。
 乾乳牛群の飼料給与形態は、粗飼料を主体として1日2回分離給与していた。日量で乾草類と稲ワラ計6.5s、大麦0.6s、ビートパルプ2s、アルファルフアヘイキューブ2sを中心として、後期には乾乳期用配合飼料を3s添加給与していた。
血液検査結果





 上のグラフがMTPの結果である。グラフ内の曲線は、平均値を実線、その上下に標準偏差を点線で表してある。故に、この点線の間が基準値(基本的に正常範囲内)である。グラフ上の「■」が酪農家Aの結果であり、横軸には乳期を示し、左から乾乳後期、泌乳初期・最盛期・中期・後期、乾乳前期としている。 泌乳牛群、乾乳牛群を通して大部分は基準値にあり、基本的に良好な飼養管理が反映されていた。
 しかし、泌乳牛群全体にALB(総合的な栄養摂取状況の反映、特に蛋白質)、
CHOL(総合的な栄養摂取状況の反映、特にエネルギーや脂質)、BUN(採食量の反映)は若干だが低値であった。
 特に、泌乳初期ではこの状態が顕著であり、GLU(エネルギー摂取状況の反映)もまた低値であった。
 酪農家Aは乳量を計測していなく、TMRの一群管理のため、この乳期を計測していなく、TMRの一群管理のため、この乳期の高泌乳牛が栄養不足に陥っていると考えられた。 繁殖成績を検討すると、初産、経産牛ともに空胎日数が長く、分娩間隔の長期化は泌乳後期から乾乳期においての過肥を生じていた。また、乾乳牛群においてもCHOL、BUNが低値であり、これは穀物や脂質の給与不足と考えられた。
 以上の結果を参考とし、大幅な飼料変更は実施せず、酪農家Aの可能な範囲で対策をとった。泌乳牛群においては若干の粗飼料不足であり、「負け牛」でも採食可能にする目的で、絶対的な乾物量を上げるために1種類の乾草を1.5から3.0sに増量、栄養不足の改善のためTMRを給与してから、高泌乳と思われる牛に対して泌乳期用配合飼料1〜2sのトップドレス(個別)給与を実施した。
 乾乳牛群では、基本的に乾草類を中心とした給与を行い、前期は乾乳期用配合飼料を添加し、後期は分娩前後の飼料の急変を防ぐために、分娩前20日位から泌乳期用MTPのリードフィード(馴致)給与を実施した。また、この乳期の過肥牛に対しては、定期的に強肝剤の飼料添加を行った。
以下に示すグラフは、酪農家Aの繁殖検査の結果である。若干ではあるが、飼養管理の改善が繁殖成績に反映されているように思われる。今後も酪農家Aや酪農組合の獣医師と協議し、繁殖や産乳成績向上のため飼養管理を観察していきたい。